「選択と集中」が分けた半導体産業の明暗
日本の半導体企業の明暗が大きく分かれている。東芝やソニーが大型投資に乗り出し、事業拡張へ積極的に動く一方で、ルネサスエレクトロニクスや富士通は事業の縮小を余儀なくされている。
各社の浮沈を分けた最大の要因は、事業の「選択と集中」を実行し、世界で通用する強い製品を持てたかどうかである。
2002年にメモリーの一種であるDRAMから撤退した東芝は、経営資源をフラッシュメモリーと呼ばれる新型半導体に集中することで盛り返した。
DRAMの教訓を踏まえ、小規模の工場を多数乱立させるのではなく、開発・生産機能を四日市工場(三重県)に一本化し、韓国サムスン電子ともほぼ互角に渡り合える体制を築いた。
フラッシュメモリーはスマートフォンなどに搭載され、需要は伸びている。東芝は今月、四日市工場内で新生産棟の建設に着手、総額4000億円とも目される巨額の投資を実行し、増産を急ぐ。
「電子の目」と呼ばれる画像センサー半導体で世界シェア1位のソニーの軌跡も、東芝によく似ている。ゲーム機用の半導体などから撤退し、もともと強みのある画像分野に特化した。
反対に、NECや日立製作所の半導体事業の統合で発足したルネサスは事業の絞り込みが足りず、収益の核になる強力な商品が育たなかった。
利益の出ない企業は投資もできない。経営再建中の同社は主力の鶴岡工場(山形県)の売却をめざしたが、設備が古いことが嫌気され、買い手がつかず、最後は閉鎖の決断を余儀なくされた。
各社の盛衰を決めたもう一つの要因は顧客基盤の広がりである。こちらは「選択と集中」とは逆に、なるべく幅広い顧客層を持つことが、経営の安定につながる。
ルネサスはゲームや通信など特定少数の国内メーカーへの依存が強く、納入先の経営不振がルネサスの業績悪化に拍車をかけた。内向きの体質から脱却し、広く世界に事業機会を求める会社に変身することが、再生には欠かせない。
半導体の歴史を眺めて改めて実感するのは、「経営」の重要性である。10年前の時点で、各社の技術力や人材の厚みにそれほど大きな差はなかった。違ったのは、一時的な痛みを伴ったとしても、先を見据えた戦略的な決断ができたかどうかである。